曲目解説

抒情三章
 萩原英彦は、昭和8年東京に生まれた。彼の代表作は主に合唱曲で、最初に発表した作品は男声のための合唱
曲であったが、女声合唱曲には傑作が多く、この『抒情三章』もその一つである。
 彼の作品は、温かくまるい雰囲気を持ち、澄んだサウンドと音楽に対する憧れを含んでいて、日本語の持って
いる音のひびきの美しさ、やわらかさを大切にし、メロディーはデリケートで、その美しさはさらに昇華された
ものとなる。ピアノが精妙に語り、それに歌がからみ、声とピアノは協調し合う。
 『抒情三章』の作曲は昭和32年〜33年の間で、「甃の上」「春宵感懐」「風に寄せて」の3曲から成る。
3曲とも詩人が異なっており、それぞれをまとめた時に、『抒情三章』という標題にふさわしい曲集として発表
されたものである。

ルネッサンス世俗合唱曲集
 今回取り上げた4曲は、いずれもルネッサンス時代の世俗曲です。
 「かっこう」は恋の歌。かっこうの鳴き声に合わせて恋への誘いを歌っています。何度も歌われる“cucu”と 
いう歌詞がはたしてかっこうの鳴き声に聞こえますかどうか……。
 一方「さようなら可愛いアマリリス」は、失恋と別れの歌。 “adieu”(さようなら)という言葉を重ね合わ
せ、失った恋への悲しみを表現しています。
 これに対して「アウディテ・ノーヴァ」と「歌って、とび跳ねて」の2曲はとっても楽しい曲。歌って、踊っ
て、酒を飲んで、おいしいものを食べて………。合唱でさえなければ、私達の最も得意な分野なのですが……。
 と言う訳で、今回のステージは、イタリア語あり、英語あり、ドイツ語あり、そして日本語は……なし。しか
も無伴奏。でも、練習は十分に積みました。たっぷりの自信とちょっぴりの不安を込めてお送りします。

ぐりまとるりだ
 ふりそそぐ春の陽をうけて、沼に、小川に、ひっそりと息づいて誕生を待つ、幾千もの卵たち、そして水中に
泳ぎ出たおたまじゃくしたちの躍動……。水辺は生の喜びに満ちる。が、小さな生き物にとって、待っている運
命は時として苛酷だ………ぐりまを亡くしたるりだの悲しみ、幾多の蛙の声にならない悲しみが重なる。
 一昨年秋85才でその長い詩作の生涯を閉じた草野心平の20代から30代にかけて、これらの詩の載る詩集
「第百階級」「蛙」は編まれています。当時、極度の貧窮生活を送っていたことを思いますと、二匹の小さな蛙
に託された命の重み、美しさ、哀しさがいっそう輝くようです。その後に続く一連の蛙の詩は、人間を、生き物
を、地球や宇宙を見つめ、怒り、笑い、胸打たれた詩人の、純真無垢な魂の結晶のように思えてなりません。

クリスマスのための四つのモテット
 フランシス・プーランク(1899〜1963)は、オネゲル、ミヨーらとフランスの6人組といわれ、二度の世界大
戦にはさまれた不安と激動の時代に戦前の作曲家が持っていた美の理想に対する猛烈な反動として、反ロマン派
の旗印をかかげた作曲家である。彼は、メロディーに対する並外れた才能を持ち、やや軽妙なパリジャンのウィ
ットとエレガンスをかもしだす作品が多い。合唱作品も多く特に「ロカマドゥールの黒い聖母像への連祷」「ト
長調ミサ曲」「スタバト・マーテル」などの宗教音楽は自然な形で存在する宗教心に自由な表現の機会を与えら
れた逸品といえよう。
 『クリスマスのための四つのモテット』も、ある種の喜ばしい霊気にあふれ、ア・カペラの清澄な響きの中に
浮かび上がるメロディーラインの美しさに敬虔な祈りと共に心地よさを感じるのである。

三つの抒情
 暁から夕べの間に微妙に変化する光と影に、人の心、うつろいを重ね合わせたのでしょうか。そして西風の吹
く彼方に輝くものを見たのでしょうか……「ある風に寄せて」
 暗く厳しい冬の海に無限に広がる堪えがたい寂寥……。咆哮を繰り返す海に、人魚の姿など見るべくもない…
…「北の海」
 やさしい人らよたずねるな!
 心の奥にしまい込まれた悲しみや苦しみ。碧の闇のむこうに魂のやすらぎを願う「ふるさとの夜に寄す」
 『三つの抒情』は、立原道造の詩2編と中原中也の詩に寄るもので、三善晃のはじめての女声合唱曲です。心
の密やかな動き、夢を求め叫ぶような詩は、私達の心に深く沁み入るようです。

風に寄せて
 立原道造には「風に寄せて」と題された2つの連作詩があり、これらの詩は14行詩(ソネット)の形式から
成って道造独特の世界を造り出している。
 淡いパステル画をみるようなこの“風”の世界は、道造が愛した信州、軽井沢の風景でもあり、又、結核とい
う、当時としては不治の病を得た道造が、自然の中に生命の輝きを見い出し、その存在を見つめながら、短い生
命に対する厳しさを内に秘めて、しかし、やさしい時の流れに身をゆだねざるを得ない人間の生命のあり方のひ
とつを、私達に語りかけている。
 混声合唱組曲『風に寄せて』は、この2つの連作詩「風に寄せて」の中から、“その1”は昭和57年に“そ
の2”“その5”は昭和58年に、曲が付けられたものである。作曲者自身が“軽井沢の風に寄せて”と言って
いるように、軽井沢の透明な空気を渡る風の中にある生命の風を、やさしく、そして時には激しく、歌い上げて
いる。



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